M.U.R.A.I.処理とは超音波探傷映像化装置で行われる画像処理方法で、従来より行われている音圧(エコー高さ)あるいはビーム路程のデータを単純階調処理する方法と異なり、音圧情報に反射波の位相情報をマトリクス状に複合処理しカラー階調表示する方法です。この処理により接着と剥離の識別、金属中の非金属介在物とボイド(空孔)の識別等のアプリケーションが可能となります。
一般に音響インピーダンスの異なる二つの物質の境界に超音波が垂直に入射した場合入射した音圧と反射した音圧の比Rは第1の物質の音響インピーダンスをZ1、第2をZ2とすると次式で表されます。
図1 境界に於ける反射と通過
ここでRの係数は反射波の位相を表し正であれば正転、負であれば反転を表します。すなわちZ2>Z1(たとえば水から鋼)であれば位相は正転し、Z2<Z1(鋼から水)であれば位相は反転します。:図1参照
これを利用すると接着と剥離、介在物とボイドの識別が可能となります。ただし識別する物質の音響インピーダンスの関係が上記の条件を充たさなければなりません。
物質 | 水 | アクリル | 鋼 | アルミニウム | アルミナ |
---|---|---|---|---|---|
音響インピーダンス | 1.5 | 3.2 | 45.4 | 16.9 | 約40 |
位相反転を利用するためにはダンピングの高く上下非対称の波形を有する探触子が必要となります。高ダンピングの探触子としては、セラミック系ではニオブ酸鉛の振動子と特殊なバッキング材より構成された探触子があります。またポリマー探触子は素材自身が高ダンピング特性を持ち100MHz程度までの高周波の対応が可能なことと、焦点型振動子が作りやすい事から位相反転を利用するアプリケーションに最適です。図2のポリマー探触子の反射波形では、周波数25MHz焦点距離 12.5 mm SUS材板厚0.76 mmのSエコー及びBエコーを表示しており、Sエコーとバックエコーの位相が反転していることがわかります。
図2 ポリマー探触子の波形
M.U.R.A.I.処理の原理図は以下の通りです。
図3 M.U.R.A.I.処理
マトリクスにおける横軸は位相 (P / A) を示し縦軸はエコー強度 (A=P+N)を示します。また疑似カラー表示のカラーパレットは横軸方向に3色配置され256階調、縦軸は明度を256階調に配置されエコーデータのマトリクスと1対1の対応がとられています。これにより超音波透視装置によるCスキャンデータの色相、明度を見ることで探傷波形の位相、強度を知ることが可能となります。
さらに横軸、縦軸を何段階かに分け、従来のエコー高さのみのスレッシュホールドに位相のスレッシュホールドを設けることにより剥離部分の面積率、介在物の面積率等のアプリケーションに利用可能です。
図における青色はリードフレームの接着を示し、赤色はリードフレーム部のはく離、チップ周辺部はクラックを示しています。
図4 MURAI処理表示
図6 正常接着部の波形(青色部)
図7 はく離部の波形(赤色部)
図5 通常のエコー高さ表示
図8 MURAIマトリクス
アルミニウム材中の介在物特に酸化アルミ(Al2O3) は音響インピーダンスがアルミニウムより大きくボイドと識別することができます。図9が256×256階調、図10が位相のみを3階調にしたCスコープです。また図12がボイドのエコー波形、図11に介在物のエコー波形を示しています。
図9 256×256階調
図11 介在物のエコー (青色)
図10 3階調
図12 ボイドのエコー (赤色)
図13 波形の位相変化
鋼中の介在物としてはAl2O3、MnO-SiO-Al2O3、MnS等が知られており、その中でもAl2O3は圧延されても延びないためスラブ段階でのボイド/介在物の識別ポイントとなっています。音響インピーダンスは、鋼>Al2O3>ボイドとなるため、これまでの理屈では位相反転はせず識別は不可能です。しかしながら、探傷実験ではAl2O3はボイドと位相が違い識別が可能となっています。この詳細については割愛しますが音響インピーダンス以外に二つの物質の境界条件を入れた振動方程式によりAl2O3の反射波の位相はあたかも鋼より音響インピーダンスが大きいような挙動を示すことが実証されました。